甲武信ヶ岳は、奥秩父山塊に属し山梨県・埼玉県・長野県の3県にまたがっている。
山名の由来は、甲州(山梨)・武州(埼玉)・信州(長野)の境に位置することからそれぞれの頭文字をつけたという説と、山容が「拳」のように見えるとの説があるが、私的には前者のほうがわかりやすい。
また、「甲武信岳(こぶしだけ)」と呼ぶこともあるようで、どちらが正しいか不明だが、ここでは「甲武信ヶ岳」に統一している。

登山コースは、いくつかあるがどのコースも長丁場で、健脚者なら日帰りも可能とのことだが、そのなかでも最短の長野県川上村の毛木平から登るコースを選んだ。
川上村は、冬場はマイナス20℃にも達するという厳しいところではあるが、標高1300m前後の冷涼な気候を活かしたレタス、ハクサイなど高原野菜の一大生産地となっており、高原野菜発祥の地ともいわれている。金峰山(2599m)が最高峰で、今回歩く甲武信ヶ岳コースには、日本最長の河川(367km)である千曲川の源流に触れることができるのも楽しみのひとつ。
ちなみに千曲川は新潟県に入ると信濃川と名前を変える。また、国際宇宙ステーションに長期滞在した、油井亀美也さんの出身地としても知られている。
大型連休の混雑を避けるため、夜間に到着し車中泊とする。この時期さすがに寒さは厳しく、朝の温度は0℃となっていた。
川上村毛木平にある毛木場駐車場は、標高約1460mに位置し登山者向けの基地として整備され、60台が駐車可能でトイレも完備されている。

登山口を6時に出発する。
気温は0℃で、ひんやりとしているが、それほど寒くは感じない。
山桜もちらほら。

周りの林はコケに覆われ、ロックガーデンのようだ。

西沢(のちに千曲川)沿いにゆるやかに登っていく。

道は西沢を離れ林の中に入る。ざ~ざ~とした川の流れの音から野鳥のさえずりが主役となる。

再び西沢沿いに道は戻る。
千曲川源流遊歩道として整備されており、道は良好だが奥に進むにつれ一般登山道並みで、源流まで約2時間は一般観光客は躊躇してしまうだろう。

右手には大きな岩がそびえているが、岩の間から滲みだした水滴がツララとなっている。
川にもツララがいっぱい見られたが、帰りもほとんど融けずにそのままだった。

ナメ滝に到着。
ガイドブックなどの地形図には、1783m辺りがナメ滝となっているが、GPSで確認すると約1900m地点がナメ滝のようだ。
一枚岩を滑るように流れている。
この辺から周辺には残雪が見られるようになるが、登山道には全く残っていない。

この先、橋を渡り右岸を行くようになる。
だんだんと川幅が狭まり、水の勢いもゆるくなってきた。

千曲川源流まであと0.35kmの表示がある。
さらに橋を渡り左岸を行く。

この橋を渡ったところで、登山道に残雪が出てくる。
よく見るとざらざらした雪の下は凍っている。
それでも、凍っていないところを選んで進めばなんとか大丈夫だ。

川はちょろちょろと流れ、手でやっとすくえるぐらいで、源流部に近づいてきたのが感じられる。

千曲川源流部に到着。(標高約2240m)
ここから367kmの日本一長い旅路の始まりだ。

このダケカンバの幹の下から湧き出ているはずだが・・・
残念ながらこの時期、河原の下に滲み込んでいるようで、鎖につながったコップが用意されているが、飲むことはできなかった。
ここから10mほど下流のところから湧き出ているのが見える。しかし、立入禁止のロープに阻まれ断念。

源流部から残雪は急に多くなる。残雪といってもほぼ凍結した状態。
ここで初めてアイゼンをつける。
おまけにこのコース最大の急登で、尾根まで約120mを稼ぐ。

尾根に出て分岐がある。右に行くと国師ケ岳・金峰山方面、左手は甲武信ヶ岳山頂。
分岐からは、残雪のゆるやかなアップダウンがあり、頂上まで約100mの高さをがんばる。

残雪が消え、岩場をジグザグに最後の踏ん張り。

甲武信ヶ岳山頂に到着。
3時間台で登る人もいるようだが、一人旅ゆえの自由きままな山行で、ほぼ5時間かかった。

山頂から富士山を仰ぐ。(富士山が見えると見えないでは大きな違い!)
やや霞がかかってはいるが、まあまあの眺望だ。

奥には雪を被った北岳や甲斐駒ケ岳などの南アルプス、その前衛には奥秩父山塊の主脈である金峰山や国師ケ岳などが望める。

八ヶ岳連峰の最高峰である赤岳をはじめ南八ヶ岳を望む。

歩いてきた千曲川源流(西沢)の谷あいを望みながら下山する。